創作怪談IoT部屋

測定履歴

2026年8月15日

作品ノート

本作は編集部が収集した語り・伝承をもとに再編集した創作怪談です。実在の団体・人物・地名とは関係ありません。

最近は、乗るだけで体重や体脂肪率がスマートフォンのアプリに自動同期される「スマート体組成計」を使っている人が多い。

知人の男性も、その一人だった。 毎朝7時、起床してすぐに体重計に乗る。アプリに記録される彼の体重は、常に72.5kg前後で安定していた。

ある日、アプリの履歴を見返していた彼は、奇妙なデータが混ざっていることに気がついた。 ここ一週間、毎朝の記録とは別に、深夜の「午前2時30分」に未知のデータが同期されている。 記録されている重量は、常に「4.5kg」。

最初は、隣人のデバイスのBluetooth電波を拾ったか、アプリのバグだと思った。 だが、詳細な計測項目を開いて、背筋が寒くなった。 単なる重量だけでなく、『体脂肪率』や『体内水分量』といった生体データまでが記録されていたからだ。

スマート体組成計は、表面の金属パッドに裸足で触れ、微弱な電流を通さないと生体データは測れない。ダンベルや本など、ただの重い物を置いてもエラーになる。 つまり、毎晩午前2時30分、彼の部屋の真っ暗な脱衣所で、水分を含んだ「肉の塊」のようなものが、直接体重計に触れているということになる。

気味は悪かったが、実害はない。彼は機器の不具合だと自分に言い聞かせ、そのまま使い続けた。

数日後の朝。 彼はひどい肩こりと、首にズシリと沈み込むような異常な重さを感じながら目を覚ました。寝違えたかと思いながら、いつものように体重計に乗る。 足元のデジタルディスプレイが点滅し、数値が確定した。

『77.0kg』

暴飲暴食をした覚えはない。何度乗り直しても数値は変わらない。 じっと数字を見つめているうちに、嫌な符合に気がついた。

自分の本来の体重、72.5kg。 深夜に記録され続けていた謎の重量、4.5kg。 足すと、ぴったり77.0kgになる。

そういえば、昨夜の午前2時30分には、何のデータも記録されていなかった。 あの日々体重計に乗っていた「それ」は、今どこにいるのか。

成人人間の頭部の重量は、およそ4〜5kgだと言われている。