怪談ライブ実話怪談

関係者枠

2026年4月4日

作品ノート

本作は編集部が収集した語り・伝承をもとに再編集した創作怪談です。実在の団体・人物・地名とは関係ありません。

ある怪談ライブの常連客から聞いた話だ。

毎回完売するその怪談会には、決して販売されない席が一つだけあった。最前列の右端、A列1番。座席にはいつも「関係者席」と書かれた札が置かれていた。

ある雨の夜、三話目が始まったころだった。

彼が何気なく最前列を見ると、空いていたはずのA列1番に、小柄な女が座っていた。

長い髪に隠れて顔は見えない。途中から入ってきたのだろうと思ったが、狭い会場で人が前列まで移動すれば、誰かが気づくはずだった。

演者の様子も妙だった。

客席全体へ語りかけているようで、話が最も恐ろしい場面に差しかかるたび、視線をA列1番へ戻す。その女の反応を確かめるように、ゆっくりと言葉を選んでいた。

最後の怪談を語り終えると、女がわずかにうなずいた。

暗転し、再び照明がついたとき、席には「関係者席」の札だけが残っていた。

終演後、彼は受付のスタッフに尋ねた。

「最前列の右端にいた女性、出演者の関係者ですか?」

スタッフの手が止まった。

「女性なんて、座っていませんでしたよ」

彼が見間違いではないと説明すると、スタッフは周囲を確認してから、小さな声で言った。

「あの席も、以前は普通に販売していたんです。でもある晩、A列1番のお客さんが、開演途中に青ざめて受付へ来ました」

席に着いたときは、何も異常はなかった。

ところが三話目が始まると、膝の上に人ひとり分の重みを感じた。恐る恐る目を落とすと、長い髪の女が、客席へ背を向けて座っていた。

女はその客の膝の上から、じっと舞台を見つめていたという。

翌月、同じ席を購入した別の客も、まったく同じことを訴えた。

それ以来、A列1番は販売せず、「関係者席」の札を置くようになった。

「じゃあ、やっぱり誰かが来るんですね」

そう言うと、スタッフは首を横に振った。

「空けているんじゃありません」

スタッフは、札の置かれた席を見た。

「あれは、人間を座らせないための札です」