実話怪談京都廃屋

図面にない一畳

2026年4月20日

作品ノート

本作は編集部が収集した語り・伝承をもとに再編集した創作怪談です。実在の団体・人物・地名とは関係ありません。

私は親族から引き継いだ、京都・伏見にある古い家の管理をしている。誰も住んでいない空き家で、年に数回、東京から出向いて簡単な保守点検をするだけの事務的な作業だ。

ある年の春、税務手続きのために市役所から取り寄せた図面と、手元の古い間取り図を見比べていて、おかしな点に気がついた。図面上の面積と、実際の建物の形が合わない。

さらに水道の明細を見ると、元栓を固く閉ざしているはずなのに、毎月ほんのわずかだけメーターが回っている。

漏水か不法侵入を疑い、私は休日に新幹線で現地へ向かった。

家の中は埃っぽく、特に異常はない。しかし建物の裏側に回った時、違和感の正体が分かった。図面には存在しない、外壁にトタンを打ち付けて乱雑に塞がれた「一畳ほどの出っ張り」があったのだ。かつて古い井戸があった場所だ。

近づくと、内側から「ポタッ……ポタッ……」と一定の間隔で水滴が落ちる音が聞こえた。そして、その水音のちょうど裏拍で、トタンの内側を硬い爪先で軽く叩いているような音が混じっている。

ポタッ、コツ。ポタッ、コツ。

耳を澄ませて、背筋が凍った。 水音は同じ場所で鳴っている。だが、爪で叩く「コツ」という音は、トタンの裏側を少しずつ、数センチ単位で私の顔の高さに向かって登ってきていた。

私は足音を殺してその場から離れ、そのまま一度も振り返らずに家を後にした。

今でもその家の固定資産税は払い続けている。水道のメーターも、毎月わずかに動き続けている。 更地にして売却しようと考えたこともあるが、実行には移せない。売却の査定や解体工事を入れれば、業者が必ず「あのトタンの内側」を開けてしまうからだ。