怪談オンライン実話怪談

配信の向こう

2026年4月4日

作品ノート

本作は編集部が収集した語り・伝承をもとに再編集した創作怪談です。実在の団体・人物・地名とは関係ありません。

コロナ禍以降、怪談のオンライン配信が定着した。これは、ある中堅怪談師がツイキャスで自宅から単独ライブを中継していたときの話だ。

深夜2時。同接は200人ほどで、コメント欄もそれなりに流れていた。彼が「ある廃旅館で撮られた写真」の曰くを語り始めた矢先、一人の視聴者がコメントを投下した。

『配信者さんの後ろ、誰か立ってません?』

彼は一人暮らしだ。背後には白い壁とドアしかない。「いませんよ」と笑って受け流そうとしたが、コメント欄の動きが異様になった。

『いや、右上の隅』 『白いワンピースの女の人』 『こっち見てる』

振り返っても誰もいない。しかしコメントは加速する。

『まだいる』 『笑ってる』 『首傾けた』 『配信者の肩に手、置いてる』

画面上の自分の肩には何も映っていない。だが、コメント欄だけが集団幻覚に陥ったかのように盛り上がり続けている。気味の悪さに耐えきれず、彼は機材の電源を落として配信を強制終了した。

翌日、彼は冷静になってアーカイブを見返した。 やはり、映像には彼以外何も映っていなかった。

ただ一つ、決定的な違和感があった。 騒ぎの起点となった『配信者さんの後ろ、誰か立ってません?』という最初のコメント。そのアカウントのプロフィールアイコンが、「白いワンピースを着た女性」だった。

不審に思い、連携されているX(旧Twitter)のアカウントへ飛んだ。 最新のポストは、3年前の日付で止まっている。

『ご報告。娘は先日、交通事故で急逝いたしました。生前親しくしてくださった皆様、ありがとうございました。』

配信の映像には、彼以外何も映っていない。 では、あの時コメント欄で騒いでいた200人は、一体「何」を見ていたのだろうか。 死者のアカウントが発した最初の一言に引きずられ、全員が揃って「白いワンピースの女」の幻覚を見せられていたとでもいうのだろうか。