創作怪談都市スマホ十字路

インカメラ

2026年5月10日

作品ノート

本作は編集部が収集した語り・伝承をもとに再編集した創作怪談です。実在の団体・人物・地名とは関係ありません。

知人の女性から聞いた話だ。 秋の夕方、五時半頃。彼女は駅から家へ帰る途中、歩きながらスマホをいじっていた。SNSを見るのに夢中で、周りの状況はまったく気にしていなかったという。

古い住宅街の十字路に差し掛かったときのことだ。スマホの画面が固まった。電波のマークを見ると、『4G』が消えて、文字化けしたような記号になっている。フリーズしたのかと思って画面をタップすると、突然カメラアプリが起動した。

「ですが、画面に映っていたのは私の顔ではありませんでした。伝わりますかね?『うつむいてスマホをいじっている、私自身の斜め後ろ姿』が映っていたんです。インカメラが起動したはずなのに、なぜか『私の右斜め後ろ、少し高い位置』から私を見下ろしているような画角でした」

意味がわからなくて画面を見つめていると、背景がおかしいことに気づいた。十字路にいるはずなのに、ブロック塀にも電柱にも影が一切なく、画面全体にテレビの砂嵐のようにザラザラとノイズが走っていた。

混乱していると、画面の中の映像が動いた。 画面の手前側(今のカメラの視点側)から、白く細長い腕のようなものが、画面内に伸びてきた。それは人の腕の形をしていたが、決して人間ではないとわかるぶよぶよとした質感だったという。

その「腕」は、画面の中の『私の後ろ姿』に向かって伸びていき、右肩にポンと触れた。

その瞬間。 「私の現実の右肩に、ズンッと重くて冷たいものが乗しかかってくる感触がありました」

彼女は悲鳴を上げてスマホを地面に放り出し、一度も振り返らずに家まで走り続けたという。

後日、交番に届けられていた彼女のスマホは、落下による衝撃で完全に電源が入らなくなっていた。 彼女は今でも、背後を振り返ることができない。 手元のインカメラが『斜め後ろからの視点』になっていたということは、あの時彼女の背後に立っていた「何か」は、彼女の後頭部ではなく、彼女の顔を正面からのぞき込むように覆いかぶさっていたはずだからだ。