実話怪談引っ越し怪現象

見覚えのない箱

2026年4月20日

作品ノート

本作は編集部が収集した語り・伝承をもとに再編集した創作怪談です。実在の団体・人物・地名とは関係ありません。

今年の4月、私は東京の足立区から板橋区へ引っ越した。少し古めのマンションだが間取りが気に入っていた。

引っ越し当日の夜、山積みのダンボールを片付けていると、見覚えのない箱が一つ紛れ込んでいた。上面にはマジックで「写真」とだけ書かれている。自分の字ではない。引っ越し業者のミスかと思い、連絡先の手がかりを探すために箱を開けた。

中に入っていたのは、大量のL版プリントの写真だった。右下には、オレンジ色のデジタル文字で日付と時刻が焼き込まれている。パラパラとめくっていて、手が止まった。

最初の数十枚は、前に住んでいた足立区の部屋だった。まだ家具も置いていない空っぽの部屋。しかし、リビングの隅の暗がりに、真っ黒な人影が立っている。日付は数ヶ月前だ。

次の写真。同じ部屋。人影は、少しだけカメラ(こちら)に近づいている。

めくるたびに日付が進み、人影は距離を詰めてくる。やがて背景が変わった。引っ越しのトラックの荷台。次は高速道路の車窓。次は、今いるこの板橋区の部屋の玄関。人影は、私の荷物と一緒に、ずっと移動してきていた。

嫌な予感がして、束の一番下、最後の一枚を引き抜いた。

そこに写っていたのは、ダンボールを開けて中を覗き込んでいる、私の後ろ姿だった。 写真の右下のタイムスタンプは「今日」。時刻は、たった5分前を指している。

そして、あんなに執拗に写り込んでいた黒い人影は、もう「写真の中」にはいなかった。